被害者様:80代の女性(大分市在住)
事故現場:大分市
交通事故の態様:交差点を歩行横断中に右折車と衝突
ケガの内容:左大腿骨転子部骨折(約1か月後、リハビリ入院中に死亡)
解決した金額:1404万5000円
被害者様の息子様から、次のようなご相談をお受けしました。
「母は、交通事故で骨折した左股関節の手術が成功した後、リハビリ入院をしていました。
その事故から約1か月後、母は入院先で「心筋梗塞疑い」の死因で亡くなりました。
医師の説明は、母は心臓の弁に異常があり、その影響で心筋梗塞になって亡くなったのだろうというものでした。
事故との因果関係を証明するのは、医師の説明からも非常に困難だと推測されるのですが、このような場合、どのようにしたらよいのでしょうか。」
ご相談時、息子様が持参された死亡診断書を拝見しました。
直接の死因は「急性心筋梗塞疑い」、死因に影響を及ぼした病名は「大動脈弁狭窄症」と記載されていました。
医師からは、お母様は事故前から心臓の弁に異常があり、その影響による心筋梗塞の疑いが死因であると説明を受けたとのことでした。
しかし、手術はとても大がかりなもので、80代のお母様にとって大変な負担となったであろうこと、実際に手術後はお母様が弱っていらっしゃったことから、「事故が無ければ、亡くなっていなかったんじゃないか。」という思いを息子様は強く持たれていました。
当事務所の弁護士は、事故前からの疾患(大動脈弁狭窄症)の影響で亡くなったということであれば、事故との因果関係の証明は容易ではないことを説明しました。
ただ、被害者救済のための公的な保険である自賠責保険においては、事故と死亡の因果関係の判断が困難な場合は、自賠責保険金額の半分が支給されるというルールがあります。
そこで、当事務所の弁護士は、「事故と死亡の因果関係の判断が困難」と認めてもらえれば、少なくとも、死亡による自賠責保険金額の半分は支給されることを説明しました。
その後、ご依頼を受け、当事務所の弁護士は、病院から取り寄せたカルテを精査しました。
カルテには、「大動脈弁狭窄症に関しては、心不全歴もなく、EFも保たれており、現時点で手術適応とはいえないだろう。」「大動脈弁狭窄症については、中等度であり、現時点では積極的な手術適応はないと思われます。」との記載がありました。
これらの記載から、大動脈弁狭窄症だけであれば、手術をしなければ生死に直結する状態ではなかったと考えられます。
また、カルテには、「大動脈弁狭窄症については、周術期の死亡率を高める可能性もある。術中死についても十分に説明した上での(骨折をした股関節の)緊急手術が臨まれる。」「心臓疾患(弁膜症、ブロック)の合併があり、手術および麻酔の侵襲で、術中および周術期の生死に直結する状況と判断しています。」との記載もありました。
これらの記載から、単一では具体的な死亡リスクの無かった大動脈弁狭窄症と、股関節の骨折の手術が合わさったことによって、お母様は周術期に生死に直結する状況に陥ったと考えられます。
*周術期とは、術後の回復期も含めた、手術前後の一定の期間のことです。
そこで、これらのカルテの記載をもとに、大動脈弁狭窄症と股関節の手術が合わさったことが直接的に影響し、お母様は周術期に死亡したのであり、事故と死亡の因果関係は認められるべきとの意見書を自賠責保険会社に提出しました。
その結果、本件の死亡による自賠責保険金額の半分にあたる854万5000円がご遺族に支払われました。
その後、加害者側の任意保険会社と交渉しました。
予想どおりですが、任意保険会社は、事故と死亡の因果関係はない、事故前からあった疾患による影響が主たる死因であると頑なに主張してきました。
当事務所の弁護士は、自賠責保険会社に対して行った主張と同じ内容を、任意保険会社にも粘り強く主張しました。
その結果、任意保険会社は死亡への事故の影響を一定程度認めるに至り、550万円がご遺族に支払われることになりました。
自賠責保険からの854万5000円を合わせると、合計1404万5000円の賠償金がご遺族に支払われたことになります。
*上記の賠償金とは別に、治療費が病院に直接支払われています。
本件は、死亡による賠償金が全く支払われない可能性のある事案でしたが、カルテの記載をもとに死因を詳細かつ具体的に詰めたことによって、事故と死亡の因果関係が相当程度認められるに致りました。
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