交通事故と労災保険 Q&A

どのような場合に自賠責保険よりも労災保険を先に使うべきですか。

A 交通事故につき被害者の過失割合が大きい場合、治療費が多額になる場合、加害者が任意保険に加入していない場合、加害者が自己の責任はないと主張している場合などは、労災保険を先に使った方がよいと考えられます。

被害者の過失が60%の場合

自賠責保険を先に使った場合 労災保険を先に使った場合
治療費

診療報酬点数15万点
228万円

6万点×20円
+9万点×12円
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180万円

←15万点×12円
が保険で支払われるので。
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入通院慰謝料
入通院の苦痛
による損害の賠償
80万円 80万円
休業損害
治療のため仕事が
できなかった損害の賠償
120万円とします 120万円とします
損害額合計
治療費+
入通院慰謝料+休業損害
428万円

228万円+80万円+120万円
200万円

0円+80万円+120万円
治療費に対して使う
保険の内容
(1)自賠責保険 120万円(6万点×20円)
(2)任意保険 0円
(3)労災保険 108万円(9万点×12円)
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(1)労災保険 180万円(15万点×12円)
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被害者の手元に残る金額 147万2000円

加害者の任意保険
休業損害 48万円

入院慰謝料 32万円

労災保険
休業補償給付43万円2000円+
休業特別支給金 24万円
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216万円
労災保険 休業補償給付72万円

労災保険休業特別支給金24万円

自賠責保険 120万円
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休業損害と
入通院慰謝料について
▼休業損害の120万円は・・・
(1)加害者の任意保険 48万円
(2)労災保険 67万2000円
・43万2000円(休業補償給付)
・24万円(休業特別支給金)

▼入通院慰謝料の80万円は・・・

加害者の任意保険から、32万円
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▼休業損害の120万円は・・・

①労災保険 96万円
・72万円(休業補償給付)
・24万円(休業特別支給金)
※入通院慰謝料については、労災保険から給付はありません。
②自賠責保険 120万円
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(自賠責保険を先に使った場合)

(1)治療費について
まず、治療費ですが、労災保険も健康保険も使わないことになりますので、自由診療扱いとなります。 仮に1点あたり20円とすると、診療報酬点数15万点のうち6万点の治療を受けた時点で、自賠責保険の傷害の保険金額の上限である120万円を使い切ったことになります(6万点×20円=120万円)。自賠責保険は、被害者救済の理念から60%程度の過失では過失相殺しませんので、この120万円全額が自賠責保険から病院に支払われることになります。

次に、残った治療費について、被害者の任意保険に対して請求したいところですが、ここでは、被害者の過失割合による過失相殺を考える必要があります。加害者に請求できる治療費総額は、診療報酬点数15万点×20円×40%(加害者の過失割合)=120万円となります。治療費120万円は、すでに自賠責保険によって支払い済みなので、自賠責保険の上積み保険である任意保険からは、これ以上治療費が支払われることはないということになります。

このように、残った治療については、自賠責保険も任意保険も使えないので、労災保険に切り替えることになります。 労災保険を使うことになりますので、残りの治療(診療報酬点数9万点分)については、1点あたり12円となります。 ですので、9万点×12円=108万円の治療費が労災保険から支払われることになります。

こうして、このケースでは、自賠責保険(1点20円の6万点分である120万円)と労災保険(1点12円の9万点分である108万円)によって、診療報酬点数15万点分の治療費全額が病院に支払われたことになります。

(2)休業損害と入通院慰謝料について
次に、休業損害の120万円についてですが、加害者の任意保険から、加害者の過失割合40%に相当する48万円(=120万円×40%)が、被害者に支払われます。

同じく、入通院慰謝料の80万円についても、加害者の任意保険から、加害者の過失割合40%に相当する32万円(=80万円×40%)が、被害者に支払われます。

休業損害の残り72万円(=120万円-48万円)の60%に相当する43万2000円が労災の休業補償給付から支給されます。 さらに、労災の休業特別支給金が支給されます。この分は、加害者の任意保険から受け取った金額から差し引かれませんので、休業損害総額120万円の20%に相当する24万円(120万円×20%)が支給されます。

以上のように、加害者の任意保険から、休業損害48万円+入通院慰謝料32万円が支払われ、労災保険から、休業補償給付43万2000円+休業特別支給金24万円が支給されます。 よって、被害者の受け取ることができる金額は147万2000円になります。

  

(労災保険を先に使った場合)

(1)治療費について
まず、治療費ですが、労災保険を使いますので、1点あたり12円になります。 ですので、診療報酬点数15万点×12円=180万円の治療費が労災保険から支払われることになります。

こうして、このケースでは、労災保険(1点12円の15万点分である180万円)によって、診療報酬点数15万点分の治療費全額が病院に支払われたことになります。

(2)休業損害と入通院慰謝料について
次に、休業損害の120万円についてですが、労災保険を先に使いますので、被害者の過失による過失相殺はしません。なぜなら、労災保険は、被害者側の保険だからです(被害者が勤めている会社が保険料を支払っている)。
まず、休業損害120万円の60%に相当する72万円が労災の休業補償給付から支給されます。
さらに、労災では、20%に相当する休業特別支給金が支給されます。休業損害120万円の20%に相当する24万円が支給されます。

入通院慰謝料については、労災保険から給付はありません。

さきほどの労災の休業特別支給金の24万円については、加害者の自賠責保険から受け取る金額から差し引かれませんので、残りの賠償してほしい金額は、休業損害120万円+慰謝料80万円-労災の休業補償給付72万円=128万円です。 ここまで、治療費も休業損害も、労災保険を先に使って給付を受けたので、自賠責保険の傷害の保険金額の上限である120万円を全く使っていません。

そして、自賠責保険は、被害者救済の理念から60%程度の過失では過失相殺しません。

ですので、残る損害額128万円のうち、自賠責保険の傷害の保険金額の上限までの120万円が、自賠責保険から被害者に支払われることになります。

以上のように、労災保険から休業補償給付72万円+休業特別支給金24万円が支給され、自賠責保険から120万円が支払われます。 よって、被害者の受け取ることができる金額は、216万円になります。

結果

よって、このケースでは、自賠責保険よりも労災保険を先に使った方が、被害者は、68万8000円(=216万円-147万2000円)も多く受け取ることができることになります。

この記事を書いた人
深田茂人
深田法律事務所 代表・交通事故専門弁護士
深田 茂人(ふかだ しげと)
平成17年弁護士登録。平成19年に大分市城崎町に深田法律事務所開設。 これまでに1000件以上の交通事故相談、450件以上の依頼を担当しており、特に適正な後遺障害等級の認定が得られるよう注力しています。
【主な職歴・所属】
・大分県弁護士会副会長(平成26~27年度)
・大分県労働委員会会長(令和2年~現在)
・日弁連交通事故相談センター委員
・日本交通法学会会員
・日本賠償科学会会員

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